S&P500月例レポート(2025年7月配信)<前編>

S&P500月例レポートでは、S&P500の値動きから米国マーケットの動向を解説します。市場全体のトレンドだけではなく、業種、さらには個別銘柄レベルでの分析を行い、米国マーケットの現状を掘り下げて説明します。

THE S&P 500 MARKET:2025年6月
個人的見解:関税も戦争もまるでなかったかのように、市場は絶好調

 S&P500指数は、関税発動前の2025年2月19日に付けたこれまでの終値での最高値(6144.15)から関税が引き金で4月8日に付けた安値(4982.77)までの間に失った時価総額である9兆8300億ドルを取り戻しました。指数は6月に過去最高値を更新し(終値での最高値は6204.95、取引時間中の最高値は6215.08)、終値での最高値更新は年初来で5回となりました(2024年11月5日の米大統領選以降では15回)。時価総額は喪失分を取り戻しただけでなく、さらに4450億ドル上乗せされ、4月8日以降で10兆2800億ドル増加しました。

 しかし、この増加分の大半はマグニフィセント・セブン銘柄によるもので、4月8日終値以降の指数全体の配当込みのトータルリターンはプラス24.92%ですが、マグニフィセント・セブン銘柄を除くとプラス14.09%でした。これでも十分な反発と言えますが、回復と言うほどではなく、実際、同期間にマグニフィセント・セブン銘柄が35.31%上昇したのに対して、S&P500指数構成銘柄の平均騰落率はプラス3.72%でした。

 6月の市場は、中東情勢を相対的に軽微な懸念材料の一つとして直ちに織り込み、また原油プレミアムの低下についても(今のところ)受容しています。市場の関心は米国議会に向いており、その議会では「一つの大きくて美しい法案」が7月4日の独立記念日までに可決される見通しです(注:6月30日の取引終了時点で、上院では採決を目前に控えており、下院も週内には修正後の最終案をめぐり採決が行われる予定ですが、承認される確証はありません)。こうした想定や期待に加え、市場は、7月9日に迫る関税の一時停止期限の大半が延長されることを織り込んでいます。交渉に誠意を持って臨んでいないと見なされた一部の国は延長されない、あるいは一部延長にとどまると予想されます。

 しかし、起こり得る問題についてはほとんど議論されず、その割に、いざという時のための救命ボートのようなポートフォリオが次々と組成されているようで、保険的な金融商品は高値を維持しています。主な(ほとんど誰も言及しない)懸念要素には、財政赤字、金利コストの増加による支出の縮小、低賃金職での人手不足、物流と価格の両面に起因する供給不足の可能性、関税コストを反映した物価上昇による消費の減退とそれに伴う企業の支出抑制などがありますが、少なくとも市場が好調なうちはネガティブなことを深く考えないようにしましょう。

 こうした懸念材料に気を取られている場合ではありません。7月15日には大手銀行を皮切りに決算シーズンがスタートします。これまでに、決算期がずれている18銘柄が決算発表を終えましたが、18社中14社で利益が予想を上回りました。2025年第2四半期の営業利益は前年同期比6.3%増が見込まれ、過去最高を更新する見通しです。2026年第4四半期までの各四半期で営業利益の過去最高更新が予想されていますが、この予想には関税コストやその影響が考慮されていないため、100%信じている人はほとんどいません。投資家は下半期のガイダンスに注目していますが、企業側は、具体的なガイダンスや状況予測を発表することを回避しようとしているかもしれません。第1四半期決算発表では多くの企業がそうした発表を回避し、その時はうまくいきました。

 7月に発表される経済指標は重要性が増しています。関税の影響が表面化する見通しであり、その影響を定量化できるようになることで、予想される米連邦準備制度理事会(FRB)の9月の0.25%の利下げ(先物市場が織り込む確率は96%)、更に12月の2回目の0.25%(同96%)の利下げの判断材料になるからです。7月31日の月末には、トランプ関税の是非をめぐる連邦巡回控訴裁判所の口頭弁論が行われる予定です。敗者は米国最高裁判所へ上告するとみられ、訴訟は長期化が予想されます。

 市場に目を向けると、7月4日の独立記念日を祝う理由が欲しい投資家にとって、S&P500指数は2025年6月に終値での最高値を2回更新し、月末最終日に今年5回目となる最高値更新を達成しました(終値での最高値は6204.95、取引時間中の最高値は6215.08)。2024年11月5日の米大統領選以降では15回目、コロナ禍前の2020年2月19日に付けた高値以降では153回目となります。

 2025年上半期のトータルリターンはプラス6.20%で、年率換算すると12.91%となり、S&P500指数は7年連続で2桁の変動(上昇6回、下落1回)を記録するペースです。2024年はプラス25.02%、2023年はプラス26.29%、2022年はマイナス18.11%、2021年はプラス28.71%、2020年はプラス18.40%、2019年はプラス31.48%で、この6年半の累計トータルリターンはプラス175.12%、年率換算ではプラス16.85%です。

 2025年6月にS&P500指数は4.96%上昇し(5月は6.15%上昇)、11セクターのうち9セクターが上昇(同8セクター)、340銘柄が値上がりし、163銘柄が値下がりしました(同347銘柄と155銘柄)。パフォーマンスが最高となったのは前月に続いて情報技術で、5月の10.79%高の反発に続き、6月は9.73%上昇し、年初来では7.70%上昇となりました。パフォーマンスが最低だったのは生活必需品で2.21%下落しましたが、年初来ではなお5.09%上昇しています。年初来で見ると、S&P500指数は5.50%の上昇で8セクターがプラス圏となり、値上がり銘柄数が287銘柄、値下がり銘柄数は214銘柄となりました。セクター別では、年初来パフォーマンスが最高となったのは資本財サービスで11.96%上昇し、一般消費財が4.22%下落して最低となっています。

インデックスの動き

 ○それでもゲームは続いています。世界的な関税や経済だけでなく、ここにきて軍事行動というイベントまで加わり、世界の情勢は日々変化していますが、市場はそうした変化に対してボラティリティの低下とスプレッドの縮小という形で対応しています。6月のS&P500指数は上昇基調が持続し、5月の6.15%高の反発に続いてさらに4.96%上昇し(その前は3ヵ月連続で下落して累計7.80%下落)、終値での最高値を2回更新しました。現時点での結論は、7月の市場はそう簡単にはいかないかもしれないというものです。幾つかの法案が期限を迎え、特に上院と下院は8月の休会までに法案を成立させなければなりません。休会明けの議会ではその他の多くの問題が待ち受けています。債務や予算はゲームの行方を左右する要素ですし、関税の一時停止も期限を迎えます。さらに2025年7月31日にはトランプ関税の是非をめぐる裁判所の審理が行われます(敗者は最高裁判所へ上告するとみられます)。

 ○それから決算発表もあり、7月15日には大手銀行を皮切りに決算シーズンがスタートします。第1四半期決算で全般的に示された「どうなるか分からないが、進むしかない」といったガイダンスでは、下半期に予想される過去最高益を正当化する(あるいはバリュエーションを維持する)には不十分と思われます。下半期の利益は前年同期比18%増が見込まれていますが、この予想には関税コストや労働力問題は加味されていないようです。雇用やコスト面での最近の変化(7月の経済指標で表面化するとみられます)を加味すると、住宅市場に疲れの兆しが見えることもあり、動きの鈍る7月の夏相場を乗り切るのは簡単ではなさそうです。そのため、私の結論は先月の見解と変わりません。どうなるか分かっていないのは我々だけでなく、「影ですら分からない」ということです。

  ⇒6月にS&P500指数は4.96%上昇しました(配当込みのトータルリターンはプラス5.09%)。市場のボラティリティは低下したとはいえ、歴史的な高水準を維持しています。S&P500指数は、5月は6.15%上昇(同プラス6.29%)、4月は0.76%下落(同マイナス0.68%)、3月は全面安となり5.75%下落(同マイナス5.63%)、2月は1.42%下落(同マイナス1.30%)、1月は2.70%上昇(同プラス2.78%)でした。

  ⇒2025年第2四半期は10.57%上昇(同プラス10.94%)となりました。

  ⇒年初来では5.50%上昇(同プラス6.20%)となりました。

  ⇒2025年6月末までの1年間では13.63%上昇(同プラス15.16%)となりました。

   →2024年通年では23.31%上昇(同プラス25.02%)、2023年は24.23%上昇(同プラス26.29%)、2022年は19.44%下落(同マイナス18.11%)でした。

  ⇒6月は値上がり銘柄数が減少しましたが、依然として値下がり銘柄数を大きく上回り、340銘柄が値上がり、163銘柄が値下がりしました。5月は347銘柄が値上がり、155銘柄が値下がり、4月は168銘柄が値上がり、335銘柄が値下がり、3月は152銘柄が値上がり、349銘柄が値下がりしました。2024年通年では332銘柄が値上がりし、169銘柄が値下がりしました。

  ⇒6月は20営業日のうち13営業日で上昇しました(5月は21営業日のうち12営業日で上昇)。また3営業日で1%以上変動(2営業日が上昇、1営業日が下落)しました。5月は1%以上変動したのは4営業日(3営業日が上昇、うち1日は3.26%上昇、1営業日が下落)でした。年初来では39営業日で1%以上変動(18営業日が上昇、21営業日が下落)しています。2024年通年では50営業日で1%以上変動しました(31営業日が上昇、19営業日が下落)。

  ⇒6月は11セクターのうち、9セクターが上昇しました(5月は11セクターのうち、10セクターが上昇)。

 ○S&P500指数の時価総額は6月に2兆3350億ドル増加して(5月は2兆9740億ドル増加)過去最高の52兆5010億ドルとなりました。年初来では2兆6960億ドル増加となりました。2024年通年では時価総額は9兆7660億ドル増加、2023年は7兆9060億ドル増加、2022年は8兆2240億ドル減少でした。

 ○ダウ・ジョーンズ工業株価平均(ダウ平均)は、6月に4.32%上昇して(配当込みのトータルリターンはプラス4.47%)4万4094.77ドルで月を終えました。5月は3.94%上昇して(同プラス4.16%)4万2270.07ドル、4月は3.17%下落して(同マイナス3.08%)4万0669.36ドルで月を終えました。過去3ヵ月(2025年第2四半期)では4.98%上昇(同プラス5.46%)、年初来では3.64%上昇(同プラス4.55%)、過去1年では12.72%上昇しました(同プラス14.72%)。2024年通年では12.88%上昇(同プラス14.99%)、2023年は13.70%上昇(同プラス16.18%)、2022年は8.78%下落(同マイナス6.86%)でした。

 ○6月の日中ボラティリティ(日中の値幅を安値で除して算出)は、0.83%と5月の1.09%から低下しました(4月は3.21%、3月は1.71%、2月は1.09%、1月は0.91%)。年初来では1.51%でした。2024年通年は0.91%、2023年は1.04%、2022年は1.83%、2021年は0.97%、2020年は1.51%でした(長期平均は1.41%)

 ○6月の出来高は、5月に前月比11%減少した後に、同6%増加し(営業日数調整後)、前年同月比では32%増加となりました。2025年6月までの12ヵ月間では前年比15%増加しました。2024年通年では前年比2%減少しています。2023年は同1%減で、2022年は同6%増でした。

 ○6月は1%以上変動した日数は20営業日中3日(上昇が2日、下落が1日)、2%以上変動した日はありませんでした。5月は1%以上変動した日数は21営業日中4日(上昇が3日、下落が1日)、2%以上変動した日数は3日(上昇が3日、下落は0日)ありました。年初来では、1%以上変動した日数が122営業日中39日(上昇が18日、下落が21日)、2%以上変動した日数は12日(上昇が6日、下落が6日)ありました。2024年通年では、1%以上変動した日数は50日(上昇が31日、下落が19日)で、2%以上変動した日数は7日(上昇が3日、下落が4日)でした。

  ⇒6月は20営業日中5日で日中の変動率が1%以上となり、2%以上変動した日はありませんでした。対して5月は21営業日14日で日中の変動率が1%以上となり、2%以上変動した日はありませんでした(4月は21営業日の全てで日中の変動率が1%以上となり、そのうち2%以上の変動が13日、3%以上の変動が6日、そして10.77%に達した日が1日ありましたが、これは1962年以降で6番目に高い変動率)。年初来では1%以上の変動が77日、2%以上の変動が22日、3%以上の変動が7日でした。2024年通年では1%以上の変動が83日、2%以上の変動が11日でした。2023年は1%以上の変動が113日、2%以上の変動が13日でした。

 過去の実績を見ると、6月は56.7%の確率で上昇し、上昇した月の平均上昇率は3.98%、下落した月の平均下落率は3.30%、全体の平均騰落率は0.78%の下落となっています。2025年6月のS&P500指数は4.96%の上昇でした。

 7月は50.8%の確率で上昇し、上昇した月の平均上昇率は4.87%、下落した月の平均下落率は3.24%、全体の平均騰落率は1.69%の上昇となっています(過去のデータでは年間で最も好成績の月)。

 今後の米連邦公開市場委員会FOMCのスケジュールは、2025年は7月29日-30日、9月16日-17日、10月28日-29日、12月9日-10日、2026年は1月27日-28日、3月17日-18日、4月28日-29日、6月16日-17日、7月28日-29日、9月15日-16日、10月27日-28日、12月8日-9日となっています。

主なポイント

 ○6月の株式市場では、政治関連イベントや中東情勢、さらに関税に対する国際的な懸念といった材料を消化しながら上昇する流れが続き、S&P500指数は4.96%(配当込みのトータルリターンはプラス5.09%)上昇しました。5月は反発に転じて6.15%上昇(同プラス6.29%)、4月は0.76%下落(同マイナス0.68%)、3月は5.75%の大幅下落(同マイナス5.63%)、2月は1.42%下落(同マイナス1.30%)でした。2025年第2四半期のリターンはプラスに戻り、10.57%(同プラス10.94%)と大きく上昇しました。第1四半期は4.59%下落(同マイナス4.27%)、年初来では5.50%上昇(同プラス6.20%)、過去1年では13.63%上昇(同プラス15.16%)でした。2024年は23.31%上昇(同プラス25.02%)でした。

  ⇒6月のS&P500指数のトータルリターンはプラス5.09%でしたが、マグニフィセント・セブンを除くとプラス2.68%でした。4月8日に付けた直近安値からのトータルリターンはプラス24.92%となっていますが、マグニフィセント・セブンを除くとプラス4.09%でした。とはいえ、年初来で見ると(リターンがプラスとはいえ)マグニフィセント・セブンのアンダーパフォームは続いており、指数全体の年初来トータルリターンがプラス6.20%となったのに対し、マグニフィセント・セブンを除くとプラス5.22%でした。

 ○6月の主なデータ

  ⇒6月のS&P500指数は高値圏での取引となりました(日中最高値となる6215.08を記録、終値最高値も2回更新して6204.95をつけました)。5月が全面高で6.15%上昇したのに続き、6月も指数は(マグニフィセント・セブンによる押し上げ効果も働き)上昇基調を維持しました。一方で、2-4月の3ヵ月間のリターンは累計でマイナス7.80%でした。6月のS&P500指数は5月に全面高の展開で6.15%上昇した後に、4.96%上昇しました。4月は0.76%下落、3月は5.75%下落、2月は1.42%下落しました(1月は全面高となり2.70%上昇)。6月は20営業日のうち13営業日で上昇しました。5月は21営業日のうち13営業日で上昇しました。また、6月は値上がり銘柄数が減少したものの、引き続き値下がり銘柄数を大きく上回り、340銘柄が値上がり、163銘柄が値下がりしました。5月は347銘柄が値上がり、155銘柄が値下がり、4月は168銘柄が値上がり、331銘柄が値下がりしました(3月は154銘柄が値上がり、349銘柄が値下がり、2月は248銘柄が値上がり、255銘柄が値下がり、1月は355銘柄が値上がり、148銘柄が値下がりしました)。年初来では287銘柄が値上がり、214銘柄が値下がりとなっています。6月の出来高は前月比6%増、前年同月比では32%増となりました。

   →6月は11セクターのうち9セクターが上昇しました。5月は10セクター、4月は5セクター、3月は2セクター、2月は6セクター、1月は10セクターが上昇しました。6月のパフォーマンスが最高となったのは情報技術で9.74%上昇しました(年初来では7.70%上昇、2023年末比では46.14%上昇)。パフォーマンスが最低だったのは生活必需品で2.21%下落しました(同5.09%上昇、同17.68%上昇)。

  ⇒S&P500指数は6月に4.96%上昇して、6204.95で月を終えました(配当込みのトータルリターンはプラス5.09%)。5月は6.15%上昇して5911.69(同プラス6.29%)、4月は0.76%下落して5569.06(同マイナス0.68%)で月を終えました。2025年第2四半期の3ヵ月では10.57%上昇(同プラス10.94%)、年初来では5.50%上昇(同プラス6.20%)、過去1年間では13.63%上昇(同プラス15.16%)しました。2024年は23.31%上昇(同プラス25.02%)、2023年は24.23%上昇(同プラス26.29%)、2022年は19.44%下落(同マイナス18.11%)でした。

   →コロナ危機前の2020年2月19日に付けた終値での最高値(3386.15)からは83.24%上昇(同プラス99.13%)となっています。

 ○米国10年国債利回りは5月末の4.40%から4.24%に低下して月を終えました(2024年末は4.58%、2023年末は3.88%、2022年末も3.88%、2021年末は1.51%、2020年末は0.92%、2019年末は1.92%、2018年末は2.69%、2017年末は2.41%)。30年国債利回りは5月末の4.92%から4.78%に低下して取引を終えました(同4.78%、同4.04%、同3.97%、同1.91%、同1.65%、同2.30%、同3.02%、同3.05%)。

 ○英ポンドは5月末の1ポンド=1.3462ドルから1.3733ドルに上昇し(2024年末は1.2520ドル、2023年末は1.2742ドル、2022年末は1.2099ドル)、ユーロは5月末の1ユーロ=1.1347ドルから1.1785ドルに上昇しました(同1.0360ドル、同1.0838ドル、同1.0703ドル)。円(対米ドル)は5月末の1ドル=142.88円から143.98円に下落し(同157.32円、同141.02円、同132.21円)、人民元は5月末の1ドル=7.1998元から7.1641元に上昇しました(同7.2770元、同7.1132元、同6.9683元)。

 ○6月末の原油価格は6.7%上昇し、5月末の1バレル=60.90ドルから同64.99ドルとなりました(2024年末は同71.75ドル、2023年末は同71.31ドル、2022年末は同80.45ドル)。米国のガソリン価格(EIAによる全等級)は6月に1.5%上昇し、1ガロン=3.338ドルとなりました(5月末は3.288ドル、2024年末は同3.128ドル、2023年末は同3.238ドル、2022年末は同3.203ドル)。2020年末から原油価格は34.2%上昇し(2020年末は1バレル=48.42ドル)、ガソリン価格は43.3%上昇しました(2020年末は1ガロン=2.330ドル)。

  ⇒2025年5月時点のEIAの報告によると、ガソリン価格の内訳は、50%が原油(ディーゼルは45%)、17%(同23%)が販売・マーケティング費、17%(同15%)が精製コスト、16%(同17%)が税金となっています。

 ○金価格は5月末の1トロイオンス=3315.40ドルから上昇し、3318.40ドルで6月の取引を終えました(2024年末は2638.40ドル、2023年末は2073.60ドル、2022年末は1829.80ドル)。

 ○VIX恐怖指数は5月末の18.57から16.73に下落して6月を終えました。月中の最高は22.51、最低は16.11でした(2024年末は17.35、2023年末は21.67、2022年末は17.22)。

  ⇒同指数の2024年の最高は75.73、最低は10.62でした。

  ⇒同指数の2023年の最高は30.81、最低は11.81でした。

  ⇒同指数の2022年の最高は38.89、最低は16.34でした。

 ○目標株価も上昇しました。S&P500指数に対する市場関係者の1年後の目標株価は前月から1.4%上昇して6668となり、現在値から7.5%上昇が見込まれています。5月末時点では11.2%上昇の6575、4月末時点では6543でした。ダウ平均の目標株価は前月から0.7%上昇し、現在値から5.3%上昇の4万6452ドルとなっています(5月末時点では9.1%上昇の4万6128ドル、4月末時点では4万6810ドル)。

トランプ大統領と政治

 ○トランプ大統領は6月4日に、ロシアのプーチン大統領と75分間に及ぶ電話会談を行いました。報道によると、ウクライナへの軍事侵攻が主な議題で、プーチン大統領はトランプ大統領に対してウクライナの最近のドローンによる攻撃に対してロシア側は対応せざるを得ないと語ったとされており、両国の戦闘には収束や停戦の兆しは全く見えません。

 ○トランプ大統領は中国の習近平国家主席と90分の電話会談を行い(6月5日)、主に貿易と関税について協議したと伝えられています。両者は今後も交渉を継続していくことで合意し、9月にニューヨークで開かれる国連総会に合わせて、対面での会談を行うことが明らかとなりました。

 ○米議会予算局(CBO)は、議会で審議中(下院では賛成215票、反対214票で可決され、現時点では上院で審議中)の大型法案(税制・歳出法案、いわゆる「1つの大きくて美しい法案」)について、向こう10年間で財政赤字を2.4兆ドル拡大させるとの推計を公表しました。また、CBOは別の報告書の中で、2025年5月13日に発動された関税措置が今後もその効力を維持し、変更されない場合、向こう10年間で2.8兆ドルの歳入増が見込まれるとしています。

 ○上院は「1つの大きくて美しい法案」の修正案を公表しました。変更点としては、米内国歳入法899条(いわゆる報復税)の適用開始時期の先送りと税率縮小、州・地方税(SALT)控除上限を1万ドルに据え置き(下院案では4万ドルに引き上げ)、事業の税額控除の恒久化(下院案ではサンセット条項を導入)、メディケイド予算の削減幅拡大と新生児向け貯蓄口座の創設が挙げられます。

 ○上院は暗号資産ステーブルコイン(通常はハードカレンシーと連動するデジタル資産)の利用に関する規制枠組みを整備するためのGENIUS法案(Guiding and Establishing National Innovation for U.S. Stablecoins)を可決しました。

  ⇒下院は4月にGENIUS法案と本質的には同内容となるSTABLE法案(Stablecoin Transparency and Accountability for a Better Ledger Economy)を可決しており、GENIUS法案は法制化に向けて下院での承認待ちとなっています(法制化にはGENIUS法案とSTABLE法案の相違点を解消することが必要)。

 ○トランプ大統領は3回目となるTikTok禁止法の施行を延期する大統領令に署名しました(同禁止法は2025年1月20日の大統領就任日に大統領令によって施行が75日間延期され、その後再び施行開始が4月5日から6月18日に延期されました)。この結果、同社の(2024年4月に成立したTikTok禁止法に基づく)米国事業売却の猶予期間が90日間延長され、売却期限は9月17日となりました。

 ○2025年6月21日の深夜に米国は、B2ステルス爆撃機に搭載した重量3万ポンドの「バンカーバスター」を使用して、核兵器開発への関与の疑惑がもたれているイランの核関連施設3箇所を攻撃しました。

  ⇒6月23日にイランは報復措置としてカタールの米軍基地にミサイル攻撃を実施しました(イランはカタールに対して攻撃を事前に通告)。発射されたミサイルは迎撃され、死傷者は出ませんでした。

  ⇒金融市場は今回のイランの攻撃を象徴的な意味合いを持つ抑制的な対応だと見なしています。原油価格の終値は、米国による攻撃が行われる前(6月20日)は1バレル=75.00ドルでしたが、事態がこれ以上悪化することはないとの安心感から同68.80ドルに下落しました(S&P500指数は同日0.96%上昇)。

  ⇒トランプ大統領は23日午後にイランとイスラエルが停戦に合意したと発表しました。発表直後に合意違反の攻撃が行われたものの、その後は合意が遵守されているもようです。

 ○今後の主要イベント

  ⇒7月4日:大型減税法案の上院可決の目標期日

  ⇒7月9日:相互関税の適用停止期間(90日間)の期限。EUへの50%関税の保留期間が終了

  ⇒7月31日:連邦控訴裁判所が設定したトランプ関税に関する訴訟の弁論期日

  ⇒8月12日:中国を対象とした10%を超える相互関税の適用停止期間(90日間)の期限

  ⇒8月下旬:政府債務が上限に達する見通し。米国債の元利払いの資金が枯渇する可能性

  ⇒9月17日:TikTok禁止法の3回目の施行延期期間の期限

<後編>へ続く

 


配信元: みんかぶ株式コラム